26. 10月 2000 · [EPISODE 16]LPstd’59 VS ストラディバリウス はコメントを受け付けていません · Categories: 過去の四方山Episode1〜

何年前かは忘れましたが、名古屋店にヴァイオリンの名器ストラディバリウスがやってきた話をしましょう。

ある日、大阪のお客さんが若い女性を連れて店に入ってきました。その人がレスポールが大好きだったので、さっそくGibson LPstd’59を数本持ち出してきて、他のお客さんを交えて「このギターのトラ目はすごい!」とか、「音がいいね。レモンドロップの色もいいね。」などとワイワイ騒いでいました。

ふと、女性がヴァイオリンを持って来たことを思い出して、「ヴァイオリンの世界もすごいですね。それも・・・高いんでしょ?」と気軽に聞いてみたところ、その控え目な女性は、「ええ・・・、O億O千万円ぐらいです。この間、自分の持っていたガダニーニを下取りに出して買ったストラディバリウスです。」、「うん?どひゃー!本物ですか!」と、みんなビックラしました。女性は続けて「弓は800万円以上したかな?」と物静かに答えてくれたのです。値段に対する理解はできているのですが、その時にあったLPstd’59より弓のほうが高いとは・・・、何と恐ろしい世界です。

さっそく、クラシック界の常識を知らないお気楽な私達は、名器の音がものすごく聴きたくなり、その音を聴かせてもらえるように厚かましくお願いしました。それには連れてきたお客さんが慌てて、「すみません。この人はさっきN響とのジョイント・コンサートを終えてきたばかりなんですよ。」と頼むからトンでもないことを言わないでくれって感じでした。ところが、彼女は別に気にもしてない様子で、すぐにチューニングをし始めました。ちょうど、東京からギターの調整に来てくれていたお気楽3号ツールボックスの茂木がいたので、彼も呼んで超小演奏会が始まったのです。

私達は、かの有名なストラディバリウスの音を真近で聴けるので、ドレミファぐらいだけでも良いと思っていたのです。しかし、茂木は「せっかくだから、何でもいいから曲を弾いてください。なんだったら”森の熊さん”でもいいですよ」と呆れるリクエストをしました。結局、チェゴイネルワイゼンを弾いてもらう事になったのです。本当にすごかった!音は空気を振動させて出るものと改めて感動しました。控え目だった彼女は、ヴァイオリンを構えると人が変わったように堂々として一気に弾ききってくれたのです。その音圧は聞いている人間が呼吸できなくなるぐらい迫力があり、聞き終わった時はみんなふらふらになっていました。

その後に、もう一度LPstd’59を取り出して弾いてみて、まだ耳に残っているヴァイオリンの音と重ねるように聴き比べしてみて、LPstd’59がストラディバリウスに通じる共通な音色を持っていることを感じました。”音は人の好みによって違う”と言いますが、それを超越する素晴らしい音があるのですね。

彼女が弾き終わった後、「いい音だ!」「すごい!」「きっと、貴方は有名な方だと思いますが・・・、それにしてもうまい!」などと口々にお気楽な賞賛をしました。

 

最後に、もし、女性ヴァイオリニストの自叙伝に、「名古屋で缶コーヒー1本でチェゴイネルワイゼンを弾かされた」という件があったなら、それは私達です。                         おしまい。

 

番外編 エマニエル長谷川の裏四方山話

 

(あんまりにも面白すぎるので掲載します。)